マイルスが生きていたら

「マイルスが生きていたらこんな音楽をやっているのでは?」そんなコンセプトを元に結成されたジャズバンド『Selim Slive Elements』。
マイルスとはジャズ界の“帝王”と呼ばれたトランペッター、マイルス・デイビス。大胆にも、1991年に没した帝王の音楽を現代に蘇らせんとしたこのバンド、リーダーはジャズ評論の大家である小川隆夫氏である。
ジャズファンでその名を知らぬ者のいない程、音楽ジャーナリストとして常に健筆をふるい続ける小川さん。映画評論の世界で例えるなら淀川長治のような存在、と言えばその存在感が伝わるでしょうか。
その小川さんが自らギタリスト/バンドリーダーとして『Selim Slive Elements』を結成した時は、正直僕も驚きました。小川さん、どこまで本気なのか…。でも、参加メンバーの名前を見て、すぐにその本気度を理解しました。メンバー全員がジャズシーンの一線で活躍するプレイヤーたちだったからです。
参加メンバーは
平戸祐介(key, Musical Director)
元晴(sax)
栗原 健[mountain mocha kilimanjaro](sax)
小泉P克人(el-b)
コスガツヨシ[cro-magnon](g)
大竹重寿[cro-magnon](ds)
西岡ヒデロー(per)
日本のジャズ、特にクラブジャズ・シーンに精通するファンにとっては垂涎のメンバーたち。よくまあ、これだけのミュージシャンを引き入れて、バンドを結成出来たもんです。
小川さんがこのバンドの結成を発表した時、多くのファン、関係者が冷ややかな目で見ていたでしょう。「音楽ジャーナリストにバンドができるのか」と。
ところが、いざライブ活動がスタートして見ると『Selim Slive Elements』は最高にカッコ良いステージパフォーマンスを披露したんです。「マイルスが生きていたら」のコンセプトを、ありがちな懐古趣味的コピーで終わらせることなく、クラブジャズを通過してジャズを知った若い子たちが聴いても、現在進行形を感じさせる生きているジャズとして提示して見せた。
トップに出てくる写真はジャズの聖地「新宿pit-inn」でのライブを、バンドのオフシャル・カメラマンである僕が撮影した写真です。臨場感が伝わりますか?カメラマンとは案外正直な生き物で、被写体が良いと写真の仕上がりも一段上がりますね。
小川さんの現在の状態は、またまた映画の世界に例えると「映画批評の大家・蓮實重彦が映画を監督したら、ものすごいクールでカッコ良い作品が完成してしまった状態」と言えるでしょう(賢明な蓮實氏は自ら映画作家になるような愚行は犯しませんでしたが)。その愚行…いや、無謀な賭けに打って出た小川さんを、僕は心からカッコ良いと思う。
『Selim Slive Elements』の次回ライブは9月1日の「渋谷WWW・X」。何と東京JAZZのプログラムとして開催されます。小川さんの快進撃はどこまで続くのか、僕はファインダー越しに観察し続けます。